2024/01/30区切り

私は駒の仕事と木工芸の仕事と併せて専門学校の先生(助手)をしています。先生と恰好を付けて言っても、木工芸専攻の担当ですので木工芸の仕事の一環と言えばそうかもしれません。

先生の仕事に就いたのは4年前。まさにコロナで初めて緊急事態宣言が出ていた時期で、春に赴任するも職員会議も中止、入学式も中止、6月になってやっと授業が始まる。そんなスタートでした。マスクの着用がほぼ義務づけられている状況で、学生たちとは互いの顔も上半分しか見えない。木工を教えるにはどうしても手取り足取り教える必要がありますが、ソーシャルディスタンスや手指のこまめな消毒が叫ばれていた時期で、なんともやりにくさがありました。

そんな大変な時期に入学した学生たちも今年度4年生となり、ついに先日最後の卒業制作を作り終え、4年間のカリキュラムを修了しました。鉋も砥石も触れたことのない状態から、立派な作品を作り上げるまでに成長した彼らと作品たちを見ると感慨深いです。贔屓するわけではないですが、自分と同じ時期に入った子たちを見送るのはやはり少し特別な感じがしていて、これまで他の学年の実習も担当しましたが年度を終えた時の気持ちが少し違う気がしています。

彼らの卒業制作は京都市内の施設で展示されますので、宜しければご覧ください。
『京都伝統工芸大学校 第28回卒業修了制作展』

先生の仕事自体は今後も続く(はず)ので、春からはまた新たな気持ちで新入生や進級した2~4年生と工芸に励みたいと思っています。

2024/01/20難題

仕入れた木地を駒木地に仕立てていきます。

今回は薩摩黄楊の根杢材です。
薩摩黄楊の根杢は原木での入手は難しく、35mmほどの四角、厚みはテーパーがかかった状態で切り出されたものを材料屋さんに見繕ってもらい、板目と柾目を仕入れました。2年ほど手つかず湿度を下げた部屋で保管していました。

反りやテーパーのバラつきが多く、まずはテーパーの状態を揃える加工から始めました。

ベルトサンダーと簡易な治具を用いて、10度のテーパーに揃えました。整形の余地を残すために厚みは適当に厚めに残しておきました。


こちらは板目の根材(縮み杢)。縮み杢の出方だけでなく木目も全く模様が違います。


こちらは柾目の根材(縮み杢)。板目よりは木目はいくらか揃いますが、目の幅や色目はやはり異なります。

こうしてみると根材の模様を「完全に」揃えるのはかなり難しいのがお分かりいただけるかと思います。
島黄楊の製材をするようになって私も理解を深めた部分がありますが、杢が出る木地は一つの根っこの塊から数枚採れたら良い方でして、4,50枚揃えるのに何本も木が必要になります。木が違うと当然目の幅や色目が変わってきます。

木取りの理想は「共木(ともぎ)」と言って、1本の木から全ての材料を揃えることができると材料の色や表情を合わせやすくなります。しかし杢の場合は前述のように1本の木から数枚ずつしか採れないため複数の木からできるだけの表情の近いものを集めて、駒木地に仕立てる際には杢が駒の良い位置に出るようになんとかかかんとかまとめています。

さて、どうなるでしょうか?

2024/01/10今年もよろしくお願いいたします

遅ればせながら、

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2024年は年初に大きな災害が起こってしまいました。
被害にあわれた方にお見舞い申し上げ、亡くなられた方にご冥福をお祈りいたします。
私の知っている方も被災地の中心付近に住まわれている方がおり、大変な被害を受けられたとの報が届きました。12年前にお宅にお邪魔し、町や少し車で走って輪島も案内していただいたことが思い出されますが、多くの命やあの街並みが失われたと思うと胸が痛みます。

寒い日が続き、避難先でも大変な思いをされている方が多くいらっしゃることと思います。一刻も早く平穏な日が戻ることを心から願っております。

2023/11/2310年前

2013年11月23日は岡山県倉敷市にて第21期倉敷藤花戦第2局が行われ、その対局に私の駒と駒箱を使用いただいたのが初めてのタイトル戦での採用でした。もう10年も前になるのですね。早いです。

倉敷で行われる倉敷藤花戦は関西駒の会の先輩方の尽力により会友の駒が対局へ採用いただけるご縁があり、2013年度は私もそのご縁のお世話になりました。なので、採用されましたなんて恰好を付けていますが、正直に言えばおんぶにだっこでお膳立てしていただきました。実際当時(現在も?)の盛上げ駒はとてもタイトル戦に採用いただけるようなレベルではなく、今見てもなんというか、、、よく使っていただけたなというものでした。

あまり卑下しては当時お世話になった方々に失礼かと思いますのほどほどにしておかねばと思いますが、やはり今その盛上げ駒をみると当時の試行錯誤が垣間見えます。

当日は源兵衛清安を持ち込みましたが、本当は菱湖との二択で選んでいただきたくて、直前まで頑張っていましたが菱湖の方は間に合わず、結局第41作目源兵衛清安書を持ち込ませていただきました。ちなみに菱湖の方はのちに盛上げなおして第50作巻菱湖書として完成させました。

この期の挑戦手合は里見倉敷藤花に今年引退された甲斐女流王位。検分から前夜祭、対局開始時まで立ち会わせていただきましたが、対局者のお二人、立会人の矢内女流も検分や前夜祭の際はリラックスされてにこやかにされていましたが、対局の朝になると別人のようなオーラと引き締まった表情が印象的でした。この第二局は予想された振り飛車の対抗形ではなく横歩取り模様からの相掛かりに進行し、終盤抜け出した甲斐女流王位が勝利。第三局も甲斐さんが勝利し、倉敷藤花奪取となりました。

元々は将棋好きの父から将棋を教わり、私が駒を作るようになり、そうこうしているうちにご縁に恵まれタイトル戦の対局室に父を連れて来ることができたのは、私にとってとても良い思い出でした。

2023/11/18今年の島黄楊が入荷しました

ここ数年は駒木地を原木から成形することにもチャレンジおり、毎年買える分だけ島黄楊や薩摩黄楊の原木を買っています。本当は生木で丸々一本買いなんてことをしてみたいですが、色々とお話を聞くと大きなリターンは見込めるものの、配送が遅れたり、入荷してすぐに製材できないと原木全体にアオ(青カビのシミ)が入って原木が全滅するリスクもあるそうで、なかなかその手の素人には難しいなと思い、原木を半割にして真空乾燥機を通したものを買っています。人工乾燥をかけることにも賛否があり、現地で短冊にして天乾したものを求める方も多いそうですが、ミカン割からやってみたいので今はとりあえずその材料で仕入れています。

入荷は例年晩秋です。切り旬が関係しているのだと思います。
今年は地際の材と、根の輪切りを買い求めました。

まずは根の輪切り材。形も直径も様々な状態で入ってきます。
特に特徴がなくいわゆる「根柾」が採れそうな材から、側面からとんでもない杢がチラ見する材、はたまた切り所が難しすぎて焚き物になってしまいそうな材も色々入っていて見る分には面白いです。写真のようなギラギラな杢は数枚採れれば御の字ですね。安全に製材して、保管して、駒木地として組むまでが大変なんです。。。でも楽しいです。

こちらは地際の材。等級的には並材ですが、見事に根っこ付で送られてしました。太さも割り合いあるので根柾なら採れそうです。あとは根っこの中にどんな杢が隠れているか、、、。二枚目は右の二本を裏返したもの。髄の部分が虫に食われたのか黒くなっていますが、木がカーブしているところは虎杢が見えていて、割れや青が無ければ数枚は採れるでしょう。さすがにこの1~2本で杢を一組揃えるのは不可能ですが、少しずつ貯めていつか一組組めたらと皮算用だけは立派にできます。

人工乾燥されていますので、猶予はあると思いますが、早く板にしたくてうずうずします。

これが宅配で届くのですが、配送業者のおじちゃんから不思議そうに「これは何に使うの?」と質問されました。冷静に考えればかなりヘンテコな荷物ですよね。木工家や駒師はその辺の感覚が麻痺している可能性があります。