2023/11/2310年前

2013年11月23日は岡山県倉敷市にて第21期倉敷藤花戦第2局が行われ、その対局に私の駒と駒箱を使用いただいたのが初めてのタイトル戦での採用でした。もう10年も前になるのですね。早いです。

倉敷で行われる倉敷藤花戦は関西駒の会の先輩方の尽力により会友の駒が対局へ採用いただけるご縁があり、2013年度は私もそのご縁のお世話になりました。なので、採用されましたなんて恰好を付けていますが、正直に言えばおんぶにだっこでお膳立てしていただきました。実際当時(現在も?)の盛上げ駒はとてもタイトル戦に採用いただけるようなレベルではなく、今見てもなんというか、、、よく使っていただけたなというものでした。

あまり卑下しては当時お世話になった方々に失礼かと思いますのほどほどにしておかねばと思いますが、やはり今その盛上げ駒をみると当時の試行錯誤が垣間見えます。

当日は源兵衛清安を持ち込みましたが、本当は菱湖との二択で選んでいただきたくて、直前まで頑張っていましたが菱湖の方は間に合わず、結局第41作目源兵衛清安書を持ち込ませていただきました。ちなみに菱湖の方はのちに盛上げなおして第50作巻菱湖書として完成させました。

この期の挑戦手合は里見倉敷藤花に今年引退された甲斐女流王位。検分から前夜祭、対局開始時まで立ち会わせていただきましたが、対局者のお二人、立会人の矢内女流も検分や前夜祭の際はリラックスされてにこやかにされていましたが、対局の朝になると別人のようなオーラと引き締まった表情が印象的でした。この第二局は予想された振り飛車の対抗形ではなく横歩取り模様からの相掛かりに進行し、終盤抜け出した甲斐女流王位が勝利。第三局も甲斐さんが勝利し、倉敷藤花奪取となりました。

元々は将棋好きの父から将棋を教わり、私が駒を作るようになり、そうこうしているうちにご縁に恵まれタイトル戦の対局室に父を連れて来ることができたのは、私にとってとても良い思い出でした。

2023/11/18今年の島黄楊が入荷しました

ここ数年は駒木地を原木から成形することにもチャレンジおり、毎年買える分だけ島黄楊や薩摩黄楊の原木を買っています。本当は生木で丸々一本買いなんてことをしてみたいですが、色々とお話を聞くと大きなリターンは見込めるものの、配送が遅れたり、入荷してすぐに製材できないと原木全体にアオ(青カビのシミ)が入って原木が全滅するリスクもあるそうで、なかなかその手の素人には難しいなと思い、原木を半割にして真空乾燥機を通したものを買っています。人工乾燥をかけることにも賛否があり、現地で短冊にして天乾したものを求める方も多いそうですが、ミカン割からやってみたいので今はとりあえずその材料で仕入れています。

入荷は例年晩秋です。切り旬が関係しているのだと思います。
今年は地際の材と、根の輪切りを買い求めました。

まずは根の輪切り材。形も直径も様々な状態で入ってきます。
特に特徴がなくいわゆる「根柾」が採れそうな材から、側面からとんでもない杢がチラ見する材、はたまた切り所が難しすぎて焚き物になってしまいそうな材も色々入っていて見る分には面白いです。写真のようなギラギラな杢は数枚採れれば御の字ですね。安全に製材して、保管して、駒木地として組むまでが大変なんです。。。でも楽しいです。

こちらは地際の材。等級的には並材ですが、見事に根っこ付で送られてしました。太さも割り合いあるので根柾なら採れそうです。あとは根っこの中にどんな杢が隠れているか、、、。二枚目は右の二本を裏返したもの。髄の部分が虫に食われたのか黒くなっていますが、木がカーブしているところは虎杢が見えていて、割れや青が無ければ数枚は採れるでしょう。さすがにこの1~2本で杢を一組揃えるのは不可能ですが、少しずつ貯めていつか一組組めたらと皮算用だけは立派にできます。

人工乾燥されていますので、猶予はあると思いますが、早く板にしたくてうずうずします。

これが宅配で届くのですが、配送業者のおじちゃんから不思議そうに「これは何に使うの?」と質問されました。冷静に考えればかなりヘンテコな荷物ですよね。木工家や駒師はその辺の感覚が麻痺している可能性があります。

 

2023/10/23TV番組「明日への扉」にて紹介いただきました

お知らせが遅くなってしまいましたが、TV番組に出演させていただきましたのでお知らせいたします。
番組名は「明日への扉」。ディスカバリーチャンネル(CS、ケーブルテレビ)にて月1回放送される番組で、日本の伝統工芸、伝統文化に携わる若者に密着して紹介する番組です。

番組のオンエアは実はもう過ぎていまして、10/19にディスカバリーチャンネルで放送されました。
ですが、YouTubeでも番組が公開されておりCS、ケーブルテレビの契約が無くてもPC、スマホから番組をご覧いただくことができます。

こちらにリンクを貼っておきます。
YouTube『明日への扉「木工芸 駒師 住谷考蔵」』

取材のお話は初夏に頂きまして、よくお話を伺って取材を受けることにしました。
よくある数時間だけ撮影して都合よく紹介する感じではなく、時間をかけて1作品ができあがるまで密着し、作者の人となりも紹介するというスタンスで作っておられます。同チャンネルのバックナンバーの動画も数本拝見しましたがとても見ごたえがあり面白いので是非他の動画も見ていただきたいです。

今回の取材も都合4回工房に来られて撮影されました。駒づくりは作業のひとつひとつが長いのでどうしても作業の一部を切り抜く形にはなってしまいますが、要所要所を押さえていただいて、将棋駒づくりというものが分かりやすい番組に仕上げていただきました。

最後になりましたが、取材にあたっては、棋士の船江先生、村田先生、関西駒の会の皆様、大阪高島屋様、日本工芸会の先生方、京都伝統工芸大学校ならびに在校生の皆様、関係各所の皆様には多大なるご協力を賜り、心より感謝申し上げます。

お時間ありましたらご覧いただけると幸いです。

2023/04/01独立して5年

ブログの方はすっかりご無沙汰してしまったようです。
駒箱づくりの記事も工程が進まぬまま完成品のページができてしまい、工程の記事が止まりすみません。また折を見てコラムにまとめたいとは思いつつ。。。

さてタイトルの通り、独立開業して丸5年、今日から6年目に入りました。
将棋関連の仕事の方は相変わらず牛の歩みで、皆様をお待たせし続けてしまっています。いよいよ愛想を尽かされるのではとヒヤヒヤしています。

あまりこのサイトでは語っていませんでしたが、
将棋の仕事は本職と言いますか、生業として本格的にやりたいとは思いつつも、やはり単体では食えぬことは事実で、食べていくために職人仕事も頑張ってきました。独立当初のイメージは月の半分は職人仕事で工房の維持費を稼ぎ、残りの半分を駒の仕事に充てて1か月に2~3組作っていくようなつもりをしていましたが、将棋以外の仕事も有難いことに注文が増えたり新しいご縁があったりで、今は結局1か月のうち、月の前半の12日ほどは仕事A、後半のうち5日間を仕事B、また週2日大体月8日間は専門学校の先生の仕事をしていて、残った5日間で将棋の仕事をするという流れがこの3年ほどです。
さすがにこれはもう駒師とは呼べないということで、昨秋から職人仕事をサポートしてくれるパートさんを雇いました。少し自分の手から離れた仕事も出てきたので、駒づくりを充実できたらと目論んでいるこの春です。

少し話は変わりますが、こういう仕事をしていて思うのは、技術や感性、感覚などが仮に上がっていくと仮定して、それはなだらかな登り坂ではなく、階段のようだということです。なにかある拍子にポンと上の段にあがります。「ああ、そういうことだったのか」と急に理解出来たり、転んでばかりだった自転車にある日急に乗ることができるように、あることが急にできるようになったりします。ややこしいのは頭だけ先に1段上に行ったり、逆に手足だけ上に行ったりする変な階段であることです。手はバンバン動くが、脳で理解できていなかったり、逆にやりたいことはイメージしているのに手がついてこない。苦しい時間です。作り手の仕事は大体この時間だと思います。

初めのころは自分の技量や作ることが楽しいという気持ちが上回っているので、楽しいものです。でもどこかで付けてきてしまった感性が技量を追い越してしまい、またどこかで追いつき追い越されを繰り返し始めます。

ここ数年は工芸展への応募もしなくなってしまいました。子育てに追われて時間が無いこともありますが、それ以上に自分の技量が追い付いていない現実にぶつかり、それを引っ張り上げる頭脳もモチベーションも今はないことが大きいのだと思います。要するに逃げです。工芸展に関しては今の僕はそういう時期なのだと思います。

駒づくりは、この1年ほどに取り組んだ作品は主に道具に関して、思い込みやこだわりを捨てて「なりふりかまわない」をテーマというか、アプローチを変えて取り組んでいます。特に新しいことをしているというわけでなくて、ある時期にはやっていたが「やっぱりこれはこうしたい」と頭で考えて捨てた手法を、今一度手段として取り入れなおした感じです。同じようでも当時とは感性も技量も違うので、前にやっていた時よりも手段としてよりよく取り入れられている実感があります。

前の職場の先輩が螺旋階段に例えて言っていたことを思い出しました。

下を見た時、1周前と同じものが見えていると思っても実は見ている高さが変わっている。

まだまだ修行は続きます。
6年目もどうぞよろしくお願いいたします。

2022/01/23駒箱の制作「手掛り~側板の接着」

雇い実の加工が済んだ材料は、接着に向けて加工を進めます。
接着してしまうと加工できなくなってしまう手掛りや内側の仕上げはこの時点で済ませてしまいます。

手掛りは型紙を使用して墨付けし、ミシン鋸で切り抜き、ヤスリ等で仕上げます。細かな面取りなどは終盤にまとめて行います。
内側の仕上げはサンドペーパーをかけて行います。本来、木工芸の仕上げは鉋掛け→ペーパー仕上げの流れとなりますが、駒箱の場合は材料が小さく鉋をかけにくいので、側板などは長さを切る前の長い材の時点である程度鉋がけは済ませておきます。ペーパーは駒づくりと同様、3Mやコバックスなどのメーカーものを使用し目詰まりさせないよう注意して行います。

内側を仕上げたらエアブローで目に詰まった粉を綺麗に飛ばし、接着を行います。
接着剤を仕口に適量塗布し、組み立て、隅当て木を添えて輪ゴムを嵌めて圧着します。接着作業は時間との勝負なので、道具、定規、治具は手が届く位置に用意しておき、場合によっては練習するなど十分シミュレーションをして臨みます。