2024/06/10漆を縮ませない考察① |
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駒づくり、特に盛上げ駒製作において最もネックになるのが、「漆の縮み問題」ではないかと思います。盛上げは伝統工芸の知り合いの人からも結構驚かれる技術でして、漆にしてはかなりの高さに、重ね塗りではなく1回で盛って、それをさらに縮ませずに硬化させるということは中々のスゴ技のようです。 私は盛上げの製作数はほんの数作で偉そうなことは言えません。が、学生の頃から一通り失敗はしてきたと思うので、その失敗の考察と、盛り上げにおいて漆を縮ませないようにするための思考をまとめてみようと思います。 まず、なぜ盛上げの漆は縮むのかについて考えておかねばなりません。 空気中の水蒸気が持つ酸素を用い、生漆に含まれる酵素(ラッカーゼ)の触媒作用によって常温で重合する酵素酸化、および空気中の酸素による自動酸化により硬化する。(Wikipediaより) 難しいことが書いていますが簡単なイメージをすると、もとはバラバラだったウルシオールが、「ウルシオール+酸素+ウルシオール+酸素+….」と連鎖してくっついていく化学反応で、ラッカーゼは仲人のような存在。ちなみに仲人のラッカーゼがいなくてもウルシオールと酸素はくっつくことができますが、ウルシオールはちょっと反応が遅く、自力でくっつくには時間がかかります。 漆は乾燥(硬化)させる際はムロと呼ばれる箱に入れて硬化させますが、ムロは時期によっては加温・加湿し、25℃・70%ほどに管理します。この25℃・70%の環境、実はラッカーゼが活性化するのための環境です。自力では反応が鈍い漆を、早く・確実に硬化させるためにラッカーゼの力を借ります。 ただ盛り上げにおいては注意が必要で、対策無しにムロに入れてしまうと、まず盛上げの表面近くのラッカーゼが活性化し漆を硬化させます。しかし中の方はまだドロドロのままです。ここが問題で、この中の方の漆は表面に膜が張ってしまったために酸素の供給が足りずに内部の化学反応が遅れます。最終的にはゆっくりですが硬化はします。ですが中の漆が硬化する際に体積が減少し、最初に硬化した表面近くと歪みが生まれて表面にしわが寄ったり、ひどい時には真ん中がボコンと凹んでしまいます。これが盛り上げにおける縮みの発生原理です。 では、どうするか。長くなりましたので、また次回に。 |