2024/04/30必要条件

前回のブログで、私の彫りの拘りを書きました。また同様のことを昨年取材を受けた「明日への扉」でも取り上げていただきました。
専門学校の教え子が明日への扉の動画を見て自分も将棋の駒を作りたいと相談してきてくれて、治具の作り方を指南したり余った駒木地を提供するなどしていましたが、会話の中で「彫りは薬研の谷をどちらかに寄せるんですよね??」と質問を受けました。「いやいや、その決まりはないよ。まずは意識せずに自然に彫ってみてね」とアドバイスしましたが、興味深いと思いました。

私にとっては薬研の谷を寄せる彫りは色々試行錯誤しながらやっていることの一つでしたが、初めて駒づくりに取り組む人が最初にその情報に触れると、それが”必要条件”になるのだなと。
かくいう私も駒づくりを始めてしばらくは当時の駒研さんの駒づくりキットやアマチュアの先輩方のブログを参考にして、サンドペーパーの番手や漆の種類はそこに載っているもの以外はダメだと思ってやっていました。どこかのタイミングでふとそれは抜け出すのですが、当時の私にとっては、駒木地はまず320番で空研ぎすること、600番以降は水研ぎすることは必要条件だと思っていました。

同様のことで、SNSなどを拝見していると駒づくりをされる方でサビを作る際、黒漆を使う方や胡粉などを混ぜる方がおられます。これも駒づくりの情報の中で誰かが行っていることで、必要条件とまではいかなくてもある程度標準化したのだろうと推測しています。サビの作り方にも決まりは無いとは思いますが、漆の仕事をされる方でそのような配合をする人は少ないと思います。黒漆の製造プロセスや胡粉のそもそもの用途を調べるとサビには合わないと私は考えていますが、それ自体ももはや私が必要条件に囚われているのかもしれません。