2023/04/01独立して5年

ブログの方はすっかりご無沙汰してしまったようです。
駒箱づくりの記事も工程が進まぬまま完成品のページができてしまい、工程の記事が止まりすみません。また折を見てコラムにまとめたいとは思いつつ。。。

さてタイトルの通り、独立開業して丸5年、今日から6年目に入りました。
将棋関連の仕事の方は相変わらず牛の歩みで、皆様をお待たせし続けてしまっています。いよいよ愛想を尽かされるのではとヒヤヒヤしています。

あまりこのサイトでは語っていませんでしたが、
将棋の仕事は本職と言いますか、生業として本格的にやりたいとは思いつつも、やはり単体では食えぬことは事実で、食べていくために職人仕事も頑張ってきました。独立当初のイメージは月の半分は職人仕事で工房の維持費を稼ぎ、残りの半分を駒の仕事に充てて1か月に2~3組作っていくようなつもりをしていましたが、将棋以外の仕事も有難いことに注文が増えたり新しいご縁があったりで、今は結局1か月のうち、月の前半の12日ほどは仕事A、後半のうち5日間を仕事B、また週2日大体月8日間は専門学校の先生の仕事をしていて、残った5日間で将棋の仕事をするという流れがこの3年ほどです。
さすがにこれはもう駒師とは呼べないということで、昨秋から職人仕事をサポートしてくれるパートさんを雇いました。少し自分の手から離れた仕事も出てきたので、駒づくりを充実できたらと目論んでいるこの春です。

少し話は変わりますが、こういう仕事をしていて思うのは、技術や感性、感覚などが仮に上がっていくと仮定して、それはなだらかな登り坂ではなく、階段のようだということです。なにかある拍子にポンと上の段にあがります。「ああ、そういうことだったのか」と急に理解出来たり、転んでばかりだった自転車にある日急に乗ることができるように、あることが急にできるようになったりします。ややこしいのは頭だけ先に1段上に行ったり、逆に手足だけ上に行ったりする変な階段であることです。手はバンバン動くが、脳で理解できていなかったり、逆にやりたいことはイメージしているのに手がついてこない。苦しい時間です。作り手の仕事は大体この時間だと思います。

初めのころは自分の技量や作ることが楽しいという気持ちが上回っているので、楽しいものです。でもどこかで付けてきてしまった感性が技量を追い越してしまい、またどこかで追いつき追い越されを繰り返し始めます。

ここ数年は工芸展への応募もしなくなってしまいました。子育てに追われて時間が無いこともありますが、それ以上に自分の技量が追い付いていない現実にぶつかり、それを引っ張り上げる頭脳もモチベーションも今はないことが大きいのだと思います。要するに逃げです。工芸展に関しては今の僕はそういう時期なのだと思います。

駒づくりは、この1年ほどに取り組んだ作品は主に道具に関して、思い込みやこだわりを捨てて「なりふりかまわない」をテーマというか、アプローチを変えて取り組んでいます。特に新しいことをしているというわけでなくて、ある時期にはやっていたが「やっぱりこれはこうしたい」と頭で考えて捨てた手法を、今一度手段として取り入れなおした感じです。同じようでも当時とは感性も技量も違うので、前にやっていた時よりも手段としてよりよく取り入れられている実感があります。

前の職場の先輩が螺旋階段に例えて言っていたことを思い出しました。

下を見た時、1周前と同じものが見えていると思っても実は見ている高さが変わっている。

まだまだ修行は続きます。
6年目もどうぞよろしくお願いいたします。

2022/01/23駒箱の制作「手掛り~側板の接着」

雇い実の加工が済んだ材料は、接着に向けて加工を進めます。
接着してしまうと加工できなくなってしまう手掛りや内側の仕上げはこの時点で済ませてしまいます。

手掛りは型紙を使用して墨付けし、ミシン鋸で切り抜き、ヤスリ等で仕上げます。細かな面取りなどは終盤にまとめて行います。
内側の仕上げはサンドペーパーをかけて行います。本来、木工芸の仕上げは鉋掛け→ペーパー仕上げの流れとなりますが、駒箱の場合は材料が小さく鉋をかけにくいので、側板などは長さを切る前の長い材の時点である程度鉋がけは済ませておきます。ペーパーは駒づくりと同様、3Mやコバックスなどのメーカーものを使用し目詰まりさせないよう注意して行います。

内側を仕上げたらエアブローで目に詰まった粉を綺麗に飛ばし、接着を行います。
接着剤を仕口に適量塗布し、組み立て、隅当て木を添えて輪ゴムを嵌めて圧着します。接着作業は時間との勝負なので、道具、定規、治具は手が届く位置に用意しておき、場合によっては練習するなど十分シミュレーションをして臨みます。

 

2022/01/03本年もよろしくお願いいたします

新年おめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2022年の正月は、息子を連れて隣県の実家の方へ帰ってゆっくりさせていただきました。実家の押し入れには過去の私の作品が転がっているのですが、久しぶりにこちらの箱を見つけました。


神代欅拭き漆の駒箱。私が専門学校に通っていた19歳ごろに制作した駒箱です。
まず神代欅に拭き漆を施していますが、今の自分なら別の仕上げを考えます。神代〇〇と呼ばれる木は色味が独特なので、拭き漆をするとせっかくの色味と木味に蓋をしてしまうことになります。もちろん神代の色味を生かした拭き漆もあり得るので、色んな選択肢から木を生かす方法を検討したいところです。この頃はとにかく拭き漆したかったのでしょうね(笑)。漆も艶々テカテカでキレイといえばキレイですが、この木地との相性で言えば微妙なところ。


そして手掛かりの刳り貫きも野暮ったい(笑)。しかし最近の自分の駒箱の手がかりも少しコンパクトにし過ぎている感じもあり、以前の作品もヒントにはなりそうです。


その駒箱に入っていたのがこちらの駒。第30作の水無瀬書盛り上げ駒
これは静山流の水無瀬と盛り上げの習作として20歳ごろに制作したものです。近づいてみると漆は滲んでいるし、字の輪郭はふにゃふにゃです(それは今もかもしれんせんが。。。)。
見ていると当時の気持ちや苦労が思い出されます。盛り上げは今でも自信ありませんが、当時は漆が縮んでしまってまともに乾かすこともできませんでした。そこでと漆を乾きが遅くなるよう調合をしましたが今度は時間をかけて縮んだだけで成果なし。この作品はおそらく蝋色漆をカラ室を通して湿室にいれて何とかかんとか乾かすことに成功したような気がします。

駒を作ることはとても楽しいですし、皆様のおかげで新しいことにも取り組ませていただいていますが、時々過去の作品を見返すと当時の苦労を思い出しますし、駒が売れるようになる前の作品とかも見ますととにかく楽しさだけで作っていたそんな勢いみたいなものも感じて懐かしくなります。

新年早々、過去を振り返る変なブログになってしまいました。

ところで、駒箱作りの経過報告が途中になってしまいすみません。
すでに木地は完成して拭き漆に入っています。また順次記事にしていけたらと思っています。

2021/09/28初めて自作駒が売れた日のこと

9月28日は思い出があります。
初めて自作の駒が売れた日です。

2008年の9月27日と28日、関西駒の会の展示即売会が大阪のATC(アジアトレードセンター)で開催され、当時専門学校1年生だった私も声をかけていただき展示会に参加させていただきました。ATCは大阪市内ながらややアクセスが悪いのですが、プロ棋士の指導対局や、駒の会代表と畠山先生との席上対局など駒の展示以外のイベントも色々と準備されていてかなり盛り上がっていた印象があります。

展示会も中盤に差し掛かったころ、私の駒を買いたいという人が現れました。年配の男性で、ご家族と一緒にたまたま通りがかって興味を持たれたようでした。その時に出品していた駒は、9作目清安彫り駒11作目菱湖彫り駒。男性は清安の彫り駒が欲しいと声をかけてくださりました。

ただ、少し値段を下げてほしいと交渉が始まりました。
当時付けていた値段ははっきりと覚えていませんが、アルバイト3日分くらいの額だったと思います。相場が全く分からず、「趣味のことでお金がもらえる」ことに戸惑ってお小遣いの感覚で値段をつけていたのだと思います。
さすがに元々の値段が安いこともあって当時駒の会の世話人だったHさんが「お父さん、これ以上引いたら材料費もありませんよ」と助け船を出してくれたのですが、その男性もなかなか引き下がってくださらず、平行線の時間がしばらく続いた時に事件が起こります。

「私が値札の価格で買います」と、別の男性が現れたのです。

その後どう事が進んだか、もう13年も前のことで事細かには思い出せないのですが、結局展示されていた清安の彫り駒はあとから現れた男性が買って帰られました。
そして初めに買いたいと言ってくださった年配の男性はと言いますと、Hさんやほかの駒の会の方も交えてお話をしたのち最終的には「あれと同じものを作って」と話がまとまったのです。

つまりこの日は自作駒が初めて売れた日であると同時に初めて依頼を頂いた日でもあるのです。
(追作の清安は第12作として作品集に載せています。)

そしてそのあと展示していた菱湖の彫り駒も売れていきました。

18歳の新米アマチュア駒師にとってはあまりに濃厚な時間でした。もしずっと私一人で対応していたら、うまく対応できずに誰かを怒らせたり、悲しませたかもしれません。関西駒の会展示会の場で、メンバーの皆さんに助けてもらいながら初めての売約という経験ができたのは幸運だっと思います。

その日を境に、自作駒も依頼を頂くようになり、現在はほぼ全て依頼を頂いて制作させていただいています。
それまでは「自分の娯楽」だった駒づくりが「誰かの喜びのため」に変わり始めたそのスタートは2008年9月27日、28日でした。

2021/09/21駒箱の制作「隅丸加工」

前回のブログで隅丸駒箱の雇い実加工を紹介しました。

駒箱は大体4~5ミリくらいの板厚で制作しますが、隅丸駒箱は6~9ミリくらいに木取し、内側は真ん中を平面に、外側は角を丸く削ることで隅丸型に成形します。指物と刳り物の両方の技術を使うことになりますね。その分手間も技術も必要です。

①~③平面部分を加工します。
使う機械は材料、作る個数、製作者の好みなどで分かれます。今回は丸ノコ盤で削り取りました。一般的にはルーターが多いと思います。ルーターの利点は1回の加工幅が広いので加工が速い、平面精度が高い、仕上がりも綺麗なことです。弱点は治具の制作や調整が面倒であること。そして杢の板の場合、逆目が発生して見た目が悪くなることがあります。制作する個数が多いときはルーターが威力を発揮しますが、今回は2組なので丸ノコ盤を使いました。丸ノコ盤は写真のとおり平面にならず仕上がりも悪そうですが、逆目が起きず、また治具が無くても加工できます。

丸ノコで荒れた面は鉋できれいに削って均します。角の方はキワ鉋というちょっと変わった鉋も使います。内側の平面度や厚みはこの時点である程度整えます。今回は平面部を5.2mmくらいまで削りました。あとで微調整したりサンドペーパーで仕上げて5mm丁度になる寸法です。

④輪ゴムで仮組して大きさを確認します。
こういう箱もの全般に言えますが、箱の内側の加工は組みあがってしまうとほとんどできなくなってしまうので作業の前半でほぼ仕上げてしまいます。その過程で削りすぎてしまうと内箱との嵌め合いが緩くなってしまうので、そのあたりの確認は慎重に行います。今回はうまくいったようです。

隅丸の丸い部分の加工は接着してから行います。