2024/05/30お互い様

世の中のごく一般のことでふと思うのですが、「見積り」や「商談」はほとんどのケースで無料だと思いますが、見積りするにも取引先に問い合わせたり内部で調整したり、様々に事務作業が積み重なってやっと見積りが出せますよね。その上で、無事に商談が成立すれば、その見積りや商談にかかった費用は回収することが叶いますが、もし商談が成立しなかった場合は、作業分は損失になってしまいます。で、その分はどこで取り返すかとなれば、別の商談が成立した事業に上乗せして取り返すしかないわけですよね。。。ということは、成立した事業の費用には成立に至らなかった事業のあれやこれやも少なからず取り込まれているということで、見積り無料の代償を誰かが払っているんですよね。

社会の常識なんだと思いますし、かくいう自分も見積り無料の恩恵を受けまくっているわけで、そのあたりは社会全体でお互い様のことなんだと頭では分かっていても、何だか「それでいいんだろうか?」と思ってしまう自分もいます。

これは私の経験談で、前職でのことになりますが、「なんであなたたちの仕事はそんなに高いのか」と説明を求められたことがあって、あれやこれやと説明はして、その相手は求めてもいないアドバイスをまた長々を話していかれたのですが、それはそれでいいとして、「そこに付き合った費用分、だれかの仕事が高くなっちゃうな」とは思っていただけないんですね。
でもこれ「自分もしかり」すぎて鏡に向かっては言えないんですが・・・。やっぱりお互い様なんですね。

2024/05/20花の季節

今日は仕事の話でははく、花の話です。
私の趣味の山野草栽培、2月に植え替えましたというブログも書きましたが、4~6月は花の最盛期です。

ここ数日で咲いたのは、ニホントキソウ、ホタルブクロ、カキツバタ、クレマチス、写真にはありませんがアヤメ、クリンソウなんかも咲いていて、そろそろアジサイも始まってきそうです。
2年ほど前からはクレマチスにも手を出していて、オダマキ、フクジュソウ、ラナンキュラスも今年育ててみていて、どうやらキンポウゲ科が私は楽しいみたいです。

工芸会の知り合いと話していると案外と同じような趣味をしている人も多く、山野草や蘭、メダカ、観葉植物のうちどれかは工芸家はやりがちなようです。年下の若手ではビカクシダやアガベに没頭する人もおり、どこか同じような遺伝構造をしているのかもしれないと密かに思っています。

2024/05/10習ったことがない

新年度になり、専門学校の仕事は今年は1年生も教えています。
木工専攻に入った1年生はまずとにかく研ぐことから教わります。しかも裏押しという刃の裏を真っ平らに研ぐ作業からです。これが実に地味な作業で1年生には辛かろうと思いますが、重要なことなので辛抱強く手取り足取り教えるようにしています。刃物に触れることがないと、斜めに研がれた”シノギ”と言われる面の方しか研がないのではないかと思われるかもしれませんが、実は刃の裏が非常に重要で、刃の裏を正確に仕込むことで刃物を使いこなすことができます。

などと偉そうなことを言っていますが、私は裏押しという作業を習ったことはありません。と言いますのも、私が在学していた当時の先生は伝統工芸士の職人の先生で、特にひとつひとつを手取り足取り教えてくれるわけではなく、研ぎに関してはただ一言「切れん」しか言ってくれない先生でした。なぜ「切れない」刃と判断されたのか、どうしたら「切れる」のか、ついに教えてもらった記憶はありません。なんだかんだ細かいポイントや技術は、先輩や刃物オタクの同期に教えてもらったり、あとは自分でコツを掴んだりして身につけました。

これはどっちが良いのか、難しいですよね。「技は盗め」と言いますが、習えることをわざわざ盗むのは遠回りなんですね。だけれども、習っても自分で実践したりつまづきながらポイントを見つけていないと真に理解していないこともありますし、さらに言えば、自力でなんとか1周回った頃合いで習うとものすごく良く解る事柄もあったりします。

3,4年生の実習には大ベテランの先生がおられて、その先生に「住谷君、あんまり細かく教えるな。(学生が)分かった気になる」と時々注意されます。

そういえば、教え方も習ったことがありませんでした。

2024/04/30必要条件

前回のブログで、私の彫りの拘りを書きました。また同様のことを昨年取材を受けた「明日への扉」でも取り上げていただきました。
専門学校の教え子が明日への扉の動画を見て自分も将棋の駒を作りたいと相談してきてくれて、治具の作り方を指南したり余った駒木地を提供するなどしていましたが、会話の中で「彫りは薬研の谷をどちらかに寄せるんですよね??」と質問を受けました。「いやいや、その決まりはないよ。まずは意識せずに自然に彫ってみてね」とアドバイスしましたが、興味深いと思いました。

私にとっては薬研の谷を寄せる彫りは色々試行錯誤しながらやっていることの一つでしたが、初めて駒づくりに取り組む人が最初にその情報に触れると、それが”必要条件”になるのだなと。
かくいう私も駒づくりを始めてしばらくは当時の駒研さんの駒づくりキットやアマチュアの先輩方のブログを参考にして、サンドペーパーの番手や漆の種類はそこに載っているもの以外はダメだと思ってやっていました。どこかのタイミングでふとそれは抜け出すのですが、当時の私にとっては、駒木地はまず320番で空研ぎすること、600番以降は水研ぎすることは必要条件だと思っていました。

同様のことで、SNSなどを拝見していると駒づくりをされる方でサビを作る際、黒漆を使う方や胡粉などを混ぜる方がおられます。これも駒づくりの情報の中で誰かが行っていることで、必要条件とまではいかなくてもある程度標準化したのだろうと推測しています。サビの作り方にも決まりは無いとは思いますが、漆の仕事をされる方でそのような配合をする人は少ないと思います。黒漆の製造プロセスや胡粉のそもそもの用途を調べるとサビには合わないと私は考えていますが、それ自体ももはや私が必要条件に囚われているのかもしれません。

2024/04/20彫りのこと

直近では宗歩好の彫り駒を制作しています。
名人駒で有名な書体ですが、少し玄人好みなのかご依頼いただくことは私の中では珍しいです。個人的には好きな書体です。

ここ数年、彫る際にやっているのは文字の流れを意識して薬研の谷を真ん中以外にもしていることです。20歳くらいの時は手に任せて彫っていたと思います。25歳くらいの時は薬研の谷をとにかく左に寄せる彫りをしていたこともあります。

現在は真ん中を通す以外に、場所によって線のどちらかに寄せてみたり、丸い部分は回転する軸の位置を工夫したり色々やっています。これが正解かどうかは分かりませんが、各時期に共通しているのはただ彫るだけにならないようにするにはどうすればよいか?とは考え続けています。機械と同じ仕事を人が時間を掛けてやっては意味が無いですし、かといって手仕事の味などと言って適当にやっているようでもいけない。

別に奇をてらおうというつもりはなく、純粋に良い駒にしたい、またわざわざ住谷にご依頼くださった方へのご期待に副いたいという思いで彫りに没頭しています。