2024/08/16詰め込み

今年に入ってからブログを定期的に更新しようと決めまして、とはいえ今までも1年更新しないこともあった人が急に筆まめにはなれませんのである程度現実味のある目標設定を考えて、10の倍数の日に更新することにして、なんとか7月まで続いていましたが、8月で途切れてしまいました。

今月は定期の職人仕事の分量がいつもより多くパンクしていました。7月末から夏休みの時期に入った学生にバイトをお願いして職人仕事を手伝ってもらい、昨日の納品まで、毎日ぎゅうぎゅう詰めで仕事して、学生が帰った後も深夜まで残業という日々。今日学生バイトの期間も終わり、職人仕事を沢山進めることができました。手伝ってくれた皆さんありがとうございます。

月の前半の職人仕事がひと段落し、先月サビ漆の工程まで進めた彫埋の砥ぎ出しを行います。サビは1,2日くらいでは中まで乾かないのでもう少し置きたいところですが、あまり置くと日を追うごとに堅くなりすぎて研ぎ出しの作業がやりにくくなるので、ある程度のタイミングで手を入れるのがコツになります。

字母紙の手前まで砥ぎました。今回は木地の狂いは少なめでした。
その後、生漆を塗り再びムロへ。この工程は意味があるか微妙なところですが、ちょっと仕上がりが締まる感じがします。ほとんどおまじないのようなものです。

再びムロへ。また数日後に砥ぎ出して、磨きに入っていきます。

2024/07/30暑い

いつの間にやら梅雨明けしまして、急激に暑い日が続くようになりました。空調の無い工房は日中は30度を超え、機械を動かすと機械と人間の熱でさらに気温が上昇し、35度程度は当たり前です。木工房は細かな粉塵が舞うためエアコンの導入は難しいと思いますが、さすがに体温近くになると扇風機の効果も無いか、場合によっては悪影響になることもあるそうで、熱中症には気を付けたいところです。

この暑い時期は水生植物の全盛期で、連日蓮や睡蓮が咲いてくれます。蓮は花弁の形が美しく、線のつながりや形の豊かさは工芸作品の参考になりそうです。

オリンピックも開幕。近頃はメディアに触れる機会も少なくオリンピックが始まることも直前まで知りませんでしたが、始まってみればやはり観てしまいますね。柔道は技ありと指導+反則だけになった今のルールは競技者でない素人にはかなり整理されて分かりやすくなった印象です。20年くらい前は技の決まり加減で技ありの下に有効(さらに昔は効果も)がありましたが、有効だけとって、あとはうまく躱して優勢勝ちみたいな展開も多く、それに対する言葉として「一本を取る柔道」なんて言葉があったりしたわけです。今は技が(正しく)入れば一本か技ありなわけですから、「一本を取る柔道」と言う必要がなくなりました。本来の道の形とは違うという議論もありますが、競技ルールとしてはかなり洗練されていると感じました。あとは審判の恣意性を排除できれば良いのですが。。。

2024/07/20制作中

現在は彫り埋め駒の依頼品を2組まとめて制作中です。

ほとんどの作業は2組同時進行しても、作業時間が2倍になるだけですが、彫り埋めに用いるサビ漆の工程はむしろ1組分だけ作るよりは2,3組分一気に作った方が練る作業も1回で済みますし、原料も歩留まりがよい感じがするので彫り埋めや盛り上げが連続する時にはまとめるようにしています。

今回は清安と奥野錦旗です。いずれもそれぞれのご依頼主様こだわりの造りになっています。細かい仕様は割愛しますが、どちらも木地から制作しました。

清安の方は木地のサイズがいわゆる大振りサイズよりさらに大きいサイズになっており、彫る際は治具ギリギリでした。

左が清安の王将(裏)と歩、右が奥野錦旗です。奥野錦旗は普通サイズですが、左の特別仕様の駒と並ぶと王将サイズが金か桂馬くらいに見えてしまいます。

いずれも彫りあがりましたので、これから目止めを施し、サビで埋める工程に入ります。

2024/07/10駒台制作

 桑の四本脚の駒台を制作しています。先月までに木地の仕事は終え、現在は拭き漆の工程に入っています。ここしばらくは定期の職人仕事の関係で作業は一旦休止中ですが、1,2か月中には完成させたいところです。

昨今は駒箱も色々と多様化しているようで、ヤフオクなどでも色々なタイプがあります。駒台はやはり四本脚と一本脚のオーソドックスなタイプが主流のようですね。何か面白いデザインは無いか考えてみたこともありますが、如何せん時間がないことと、駒や駒箱と違って盤の高さとセットになるので在庫してもしょうがないという性質から何もなしに作るというのはできないんですね。

こちら仮組です。ほぞは挿し切っていませんので本来の姿ではありません。

幕板という部分はよく見られるのは禅寺の火灯窓を模したような形が多いですが、今回の駒台は依頼者のリクエストで少し凝ったデザインにしてみました。あまり飛躍してもと思い、伝統的な意匠をベースに構成しました。

どんな風に仕上がるか、私も楽しみにしています。

2024/06/30漆を縮ませない考察③

ここまで漆の性質と、盛り上げを縮ませないためにここまでやってみた対策を書いてきました。具体的には空ムロや焼き漆を使って、盛り上げ表面の乾燥速度を遅くする対策でしたが、完成とまでは言えない対策でした。

何度もグルグルグルグルと漆を盛上げた時の縮みについて考え、ここまでまだ試していないアプローチがあることが分かりました。
ここまでやってきた対策は表面の硬化速度にだけ注目していましたが、内部の方も着目しないといけないのではないか?乾燥速度と収縮が表面と内部で「差」があるからではないか?と考えました。例えば実際にはありえないですが、「内部の漆の乾燥速度を表面以上に速くする」や「収縮しない漆」みたいなものが実現できれば縮まないわけですね。漆ではありませんが、二液性のエポキシ樹脂がまさにこの性質で、二液を混合することで硬化するため表面と内部に差が生まれず、樹脂の構造上収縮もなく縮まないのです。さすがに絶対値的に表面より内部が早く乾く漆は実現できませんが、相対的に早くして「差」を縮めることはできるかもしれません。

収縮しない漆は冗談として、相対的に差を縮める作戦としてまずは空ムロを見直してみることにしました。これまで使っていた空ムロは「湿度を上げない」空ムロでしたが、「湿度を下げた」空ムロをやってみることにしました。原理は単純で、箱の底にシリカゲルを敷いて上に桟を敷いて駒を乾かす方法で、これならカラッカラに乾燥した超空ムロにできます。これで外気に影響されるリスクは減り、表面の硬化速度をぐっと遅くすることはできました。ただこの超空ムロだけだとこれまでやってきた対策と大差ありません。焼き漆作戦と、やり方は違えど中身は同じになります。

大事なのは「差」を縮めることなので、もう一つ行ったのが「活性の良い漆を使う」ことでした。漆にも、年や時期、産地、漆屋さんごとの好みに合わせた調合などで、乾燥速度に違いがあり、例えばものすごく早く乾くものもあれば、比較的ゆっくり乾くもの、ちゃんと湿度をかけてやらないと拗ねてしまう漆など色々あります。つまり漆によっては盛り上げ内部や空ムロでもそこそこ反応してくれる漆もあるわけで、それをうまく利用できれば表面が超空ムロでじっくり硬化している間に、内部の漆も自力でそこそこ硬化してくれて、表面と内部の差を埋めることができるかもしれないと考えました。漆については具体的にどこどこ漆店の何々がいいとかは難しくて、自分で何種類も黒呂色漆を試して場合によっては調合などもしていい塩梅のものを探しました。もちろん艶の程度なども見ないといけないので、乾燥速度だけに囚われてもいけません。

非常に難儀な研究ではあるのですが、数年前にやっと縮みや艶感などが比較的安定する漆と作業工程が今のレベルとして固まった感じがあります。ちなみに漆は同じ漆でも、早く乾燥させると艶消しで且つ色が濃くなり、ゆっくり乾燥させると艶が出て色が濃くなりにくい性質があります。空ムロから湿ムロに移すタイミング、湿ムロのコンディションなどこちらの勘が勝負を握る部分も多く、また実際の所は盛り上げの技術面もまだ酷いというとこれまでお求めくださった方々に失礼かもしれませんが、まだまだ特訓と研究の余地があると思います。

今回の話では盛り上げ、漆、ムロをキーワードに漆の硬化原理と縮ませないようにするための対策を考察してみました。実際には作業者の勘や盛り上げの技術面といった不確定要素も残されてはいますが、一応この考察は今回の③をもって最終としたいと思います。
ありがとうございました。